第拾参の箱


130『クローゼット』100610


『クローゼット』

数多に在るそのクローゼットは・・・

数多の色を記憶している・・・



晴れたあの日の赤を・・・

雨降りのあの日の紫を・・・

風狂うあの日の緑を・・・

淀み曇るあの日の黒を・・・







その記憶を重ね

私は扉を開け・・・

きっと明日は明日の服を着るだろう・・・



晴れた今日は、過去の『赤』に『赤』が加わり

また新しい『赤』に変わる。

その赤はきっとまた新しい『赤』を紡ぐ・・・








雨降る『青』を晴れた日に纏えば、

『青』はまた『蒼』や『紅』を生む・・・




幾億の記憶の組み合わせは、

幾億の道を生む・・・



それがたとえ、私の記憶でも

そうでない私の記憶でも



















今日は・・・どの『色』を選ぼう・・・?

その強い意志が無限の道を創る。
129「髪」090309


長く伸ばしてた髪(かみ)を切った・・・

あたしの想いは桜と共に散った・・・

さよなら、あたし。

ごめんね、あたし。

ありがとう、あたし。

がんばるぞ、あたし。



もう、風に靡く髪(ゆめ)は無いけれど、
   根本(しんねん)は残ってる・・・

もう、風に香る髪(かこ)は無いけれど、
   記憶(おもいで)は残ってる・・・

もう、風に笑う髪(こと)は無いけれど、
   笑顔(たたかい)は残ってる・・・



また、あの桜が咲く頃・・・

あたしの華も咲いてるといいな

自然に髪をかき上げる癖が消えないように・・・

あたしと言う名の『成長日記』は

今日からまた新しい1ページを刻むんだ



また、あの桜が咲く頃・・・

あたしの華も笑ってるといいな

自然に首をかしげる笑みが消えないように・・・

あたしと言う名の『成長日記』が

それまでには新しいページが束を成す様に


いつか言ってやるんだ

あたしの日記すごいだろって

きっと誰かが読んでくれるから・・・


さよなら、あたし。

ごめんね、あたし。

ありがとう、あたし。

がんばるぞ、あたし。
128「道化師」090217


宙に聳える綱の世界から、故意に飛び込む姿在り。

仮面に描かれた涙の意味を。

私は道化師。



その綱渡りを危なげな心で見てくれるかい?

その大道を驚きの心で見てくれるかい?

その踊りを悪戯だと心で見てくれるかい?



そのキミの『眼』は、円舞を見るために。

そのキミの『鼻』は、真偽を嗅ぐために。

そのキミの『耳』は、道化を聞くために。

そのキミの『口』は、歓喜を吐くために。

そのキミの『手』は、拍手をするために。





誰も閉園を誘(いざな)わないように。

誰も劇幕を卸さないように。



まだこの『劇』は終わってないのだから、

まだその『席』は立ってはいけないのだから、



宙に聳える綱の世界から、故意に飛び込む姿在り。

無言で嘲る笑いの意味を。

私は道化師。




席を立たないでください。

まだ綱の世界は終わらないから

繰り返し繰り返し、仮面(けしょう)を落とさず

私は堕ぶ。

私は道化師。
127「銀雪」090112


ただ降り積もる雪を見たかった・・・

それを銀世界と呼ぶように・・・

あたしを癒す白い衣を・・・

足跡を残さず銀世界の中に居たかった・・・

自分すら埋まるほどの雪を・・・



ただ一握りの雪が欲しかった・・・

それが掌に舞うように・・・

あたしを包む白い衣を・・・

儚く溶かさずその冷たさを感じたかった・・・

自分すら凍るほどの時を・・・



踏みしめた雪が潰れて消え行くなら・・・

手に取った雪が溶けて消え行くなら・・・

雪は降らなくていい・・・

二度と世界を銀で包まないように・・・

あたしが雪を忘れてしまうくらいに・・・
126「森」090109



人は森に迷う。

茂る葉や枝は太陽さえも遮り・・・

人の方角さえも見失わせる・・・


人は森に惑う。

そそる木や幹は標さえも曇らせ・・・

人の軌跡さえも見失わせる・・・


その森に

不安と云う水と・・・

混沌と云う糧を与えた事と




芽吹いた『悩みの種』を自分で撒いた事と

その森は自分と云う砂漠から生まれたものだと

人は誰も気付かない・・・

そんな迷いの森の中・・・

木々の印に気付かず・・・

人はまた土に還る葉を踏みにじる・・・
125「共に」081108


あなたは喜びあってますか?
互いの嬉しい事を手放しで・・・

あなたは怒りあってますか?
互いを尊重しつつも高めるために・・・

あなたは哀しみあってますか?
互いの大事な失った物を・・・

あなたは楽しみあってますか?
互いの共有しあう同じ空間を・・・

あなたは歌いあってますか?
互いの好きな詩を歌を・・・

あなたは笑いあってますか?
互いの共通する嗜好の中で・・・

あなたは想いあってますか?
互いに本当に必要とするその存在を・・・


時には照らす太陽のように・・・
時には癒す月の光のように・・・
時には包む炎のように・・・
時には潤す水のように・・・
時には育つ樹木のように・・・
時には揺ぎ無い鋼のように・・・
時には受け止める大地のように・・・


繰り返す七つの日を・・・

あなたの横で見ていてもいいですか?

あなたの隣を歩いていてもいいですか?

あなたの傍を居場所にしていいですか?


あたしはここに居ていいですか?
124「星」080906

星に何を願う?

星は何を願う?

純粋な羽の使者は無邪気に笑う

抜ける羽すら光に魅せて


星に何を願う?

星は何を願う?

純粋な笑みの使者は無邪気に駆ける

射れる羽すら光に伏せて


ただ純粋に願う・・

ただ駆けていたい・・

ただ歌っていたい・・

ただ此処にいたい・・


その願いすら神は砕きますか?

その想いすら砕きますか?

その羽を伸ばす事すら禁止しますか?



人は星に願う

星は星に願う

純粋な夢の使者は涙を盗む

落ちる涙すら光に消して


人は星に願う

星は星に願う

純粋な永久の使者は涙を絡む

消える叫びすら光に落ちて



ただ純粋に想う・・

ただ笑っていたい・・

ただ笑わせたい・・

ただ傍に居たい・・


その想いすら闇は潰しますか?

その願いすら潰しますか?

その羽を残す事すら禁止しますか?



やがて流星は夜を照らす

誰も届かない空に瞬きを遺し

人は星に祈る

人は星に祈る
123「世界」080723


君臨する皇帝の歪んだ世界は
地を震わす戦車を蹂躙し、華も蹴散らす・・・

逆らえぬ魔術師の潰えぬ業火は
天に聳える塔を崩壊させ、無へと踏み出す・・・

狂った死神の気紛れな大鎌は
人の行き交う路を殲滅し、血煙を散らせる・・・

盲目な女帝の覚めた殺意は
愛を語る恋人たちを諌め、隠者は笑う・・・

正義を謳う法王の歪んだ力は
闇へ導く悪魔の誘いに乗り、節制は消える・・・

廻り始めた運命の輪は、誰に断わる事も無く
無謀にも無実な罰を以って審判を下す・・・
眺めるだけの吊るし人は、ただ交互に月と太陽を眺め
無残にも無害な星を願って手も伸ばせず・・・

愚者の蔓延る生き地獄
ただ純粋に夢見た教皇の願い虚しく夢は潰える・・・

光の瞬く闇の中
触れる人形全てが刃

ただこの橋を無傷で渡る事が偉業・・・

癒す音色すら足音を掻き消す諸刃の剣

叩いた扉の向こうに立つは死神か?

眼すら合わせぬ住人の心中の色は見えず

目先の自分の幸福のために刃を下ろす・・・

誰も見ぬ未来・・・

誰にも見えぬ未来・・・
122『栄光』080715


あの頃は飛べたのに・・・

生えた茸を喰らい、花を踏みにじり
跳ねた星を追いかけた夜・・・

栄光と言う名の旗を飛び越えてしまいそうだったあの頃・・・


あの頃は耐えたのに・・・

荒れた野原を歩き、仇を切り裂いて
晴れた空を取り戻す剣・・・

成長と言う名の壁を乗り越えて繰り返したあの頃・・・


あの頃は見えたのに・・・

石に躓(つまず)き、潰える冒険者・・・
昇格を夢見た騎士の戦場の宴・・・

地に埋もれし、迷える発掘者・・・
干し肉を齧った戦士の勝利の叫び・・・

鍵に閃き、進める探検者・・・
爆弾を仕掛けた闘士の策略の笑い・・・

敵を貫き、撃ちえる戦闘機・・・
超越を目指した兵士の十六の波動・・・


あの頃は飛べたのに・・・

無機質に繰り返す毎日を超え・・・
見えない道を手探りで探し出したあの頃・・・

矛盾に悩みぬく取引を超え・・・
売れない百を五十で送り出したあの頃・・・

不動に思えた友情を超え・・・
枯れない涙で突き落としたあの頃・・・


あの頃は飛べたのに・・・

重ねた年月が、阻んだ指を
束ねた知識が、嵌った穴を


ただ純粋に跳び、雲の上の王国を夢見ただけ・・・

ただ純粋に飛び、龍の神の天罰を受けただけ・・・




ただあの栄光の旗を取りたかっただけ・・・
121『地反帰』080708


闇の中・・・一陣の光輪・・・

霞んだ銀の光さえ飲み込んで逝く顎(あぎと)・・・

光の中・・・一列の斜陽・・・

伸ばした指の行方さえ惑わせて逝く眼(まなこ)・・・

微かに触れた指先が・・・一つの堕天使を産む・・・

天に還れない堕天使の口は裂かれ解放される・・・

溢れる黒き飛沫と共に断末魔の叫びを上げ

零れる黒き滴りと共に番犬の喉を潤す・・・

干上がった堕天使は束の間の栄光すら許されず・・・

黒き屍の谷へと堕とされる・・・

やがて陽に焼かれ・・・雨に穿たれ・・・

その屍が再び・・・天見舞えるまでに・・・
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