これ…誰の視線なんだろう?
懸命に走る誰か。
時折映る手首の細さから女の人なのはわかるけど。
胸にあるのは怒りと悲しみ、それから満足感?
やっと見つけた。
呟いた唇。
何を一体見つけたのか。
もつれる足を急き立てるように走り扉に手をかける。
騒々しい音を立てて開かれたその先に誰かがいた。
逆光を浴び背中を向けた人影。
息が止まる気がしたのは私じゃない人なのか私なのか。
駄目。声をかけてはいけない。
なのに私ではない誰かは口を開ける。
「さ…!!!!」
タバコを燻らせながら人影は無言のまま振り向いた。


「ダイバー!」

唐突に私は目覚めた。
見上げるように目に入った天井に憶えがまったく無い。
自分の頭を撫でながら身を起こす。
それにしても嫌な夢だった。

「ってか、ここはどこ?」

私は誰?なんてのは言わないが、自分のいる場所が全くわからない。
もしかしてマンセーを叫ぶ北の人に拉致されたのだろうか?

「船に乗るような揺れは無いから違うか。」

では私に惚れた変態による誘拐?

「どっちかといえば逆だ。」

私が監禁する側だ。
自信を持ってそう言える。
ということは。

「【ルイーダの酒場】に行ったことも何もかも夢で、実は交通事故にあってから何年も眠り続けていたという、
昔まことしやかに流れたドラえもんの最終話みたいなオチか。」

んなわけない。落ち着け私。
浅く深呼吸、いや普通に息をして辺りを見回す。
小さなテーブルとイス、姿見、それから私が寝ていたソファ。
とても生活感の無い簡素な部屋だ。

一人ボケツッコミによってようやく目が覚めた私はとにかく誰かを探そうと立ち上がった。
素早くドア横の壁に背中を当てエア拳銃を構える。
ドアノブを左手で開けて廊下を覗くと通路と呼ぶのがふさわしいものが数メートル先の暖簾で切れていた。
その先から聴き憶えのある声が届く。

「…うか。やは…………いたか。」

何を言ってるのかはわからないが声の主はダイバーだ。
不意にさっきの夢を思い出す。
バカバカしい。あれは夢だ。

「じゃあドラえもんの最終回説じゃ無かったんだ。」

ということはここは【ルイーダの酒場】で私はきっとスタッフルームにいたんだろう。
じゃあ店内にロクロママもいるはず。
私が近寄るに合わせて聞こえる声。

「……ことは、かちょは…」
「ええ。」

知り合いではないが聞いたことのある声に足を止めた。
今の声…
一瞬だけ…ほんの一瞬だけ、眉間に皺が寄る。

「…そうか。
フィルターが二個燃えていると言うことは。」

淡々と話すダイバーの声。
一体何の話をしてるんだろう?

「えぇ。私のグラスにも。
あなただけじゃ淋しいでしょ?」

…あっ!
そうか、あのカナッペって呼ばれていた人、あの人も何か入れていたんだ!
なら話は合う。
ついでに彼女が飲んでくれたら私もスッキリするだろう。

私を不愉快にしたのはどっちもなんだから、ダイバーが飲もうとカナッペっていう人が飲もうと知ったこっちゃない。
私は今か今かと反応を待つ。

「望みはこれなんだな。」

ん?

「…もう、いいの。」
あれ?

「ダイバー止めて!」

MNKSちゃんの声が聞こえる。
じゃあ…

ブホッ!!!!!!!!!!!!!!!

すぐにリアクションのいい音が届いた。
床に響く重低音。

あーぁ、やっぱりダイバーが飲んだのね。
まぁ本来の目的通りだからいいんだけどね。

「目が!目がwwwww」
「ムスK…じゃない、ママ!」

あっ、ロクロママにも被害があったんだ。
ご愁傷様。
さて。そろそろテンション上げて皆さんにネタばらしでもしましょっか♪

「キャッ!引っ掛かったwwwww」

私は暖簾を分け顔を覗かせた。

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