■ルイーダの酒場殺人事件4-forかちょ-【ゆきむりゃの視点】 ※ロクロ粘土氏共催イベント



一体これは何なんだろう。
知人であるロクロママがバーをオープンするからとお姉ちゃんから聞いて祝いにきたのはいい。
なぜここが殺人現場で犯人と思われる人物と一緒にいなければならないのか。

帰りたい。
こんな所にいたくない。

そう思うのに警察が来るのを待たなければならない。
話なんかもしないといけないから時間もかかるだろう。
もしかしたら日付も変わるのかもしれない。

親には連絡しとかないと…。
だが、この場で携帯を出して電話をするのは憚られる雰囲気だ。
喉が渇いてもさっきの事があるから飲み物に口をつけるのが怖い。
どうにもこうにも全てが気にいらない。
イライラしているとカウンターにいた男が口を開いた。

「……。俺がやった…。」

瞬間に上がった椅子の倒れる音。

「ダイ兄何言ってるの!」

さっきまでピアノを弾いていた人だ。
スゴい剣幕で男に詰めよってる。
逆にあたしは冷静な目で見ていた。
それはそうだろう。
他に毒なんて盛れる人はいない。

ロクロママだって入れれるチャンスはあっただろうけど、そんなに気に入らない人なら自分の店になんか呼ばなければいいだけ。
オープン日である今日は尚更だ。
そうなるとあの男が犯人だというのが妥当なのだ。
早く警察が来て逮捕でも何でもしてくれたらいい。

だが夢島さんの一言が終局に向かうはずの空気を崩した。

「ちょっと待ってくださいよ!」

何を待てと言うのだろう。
夢島さんは思い詰めた顔でツカツカと歩き出し女性に向かって叫んだ。

「結婚してください!」
「はい!?」

驚いた様子でいるのはさっき歌っていた人だ。
周りの人達も驚き戸惑う中で、隙を与えず鳴り響く頬を殴る音。

「あなた…何考えてるの!人が死んでるのよ!」

女性が強く睨む。

「冗談が過ぎました。」

夢島さんは痛そうに手形がついた頬をナゼながら、けど飄々と体をカウンターの方へ向けお姉ちゃんの方を見た。

「あら、私にも告白してくれるの?」
お姉ちゃんが笑う。

そんな軽薄な男はあたし認めないけど。
夢島さんも微かに笑う。
が、すぐに笑みは消えた。

「残念ながら…」

夢島さんはは灰皿を指さして続けた。

「かなっぺ…さんでしたね。この二本のフィルターはどうして燃えてるのですか?」

は?いきなり彼は何を言ってるのだろう。
お姉ちゃんはにこやかな表情を崩さない。

「あら?どうしてかしらね?」

茶化すようなイタズラっ子の言い方。
こういう時のお姉ちゃんは楽しそうに振る舞うが、実のところは話をしたくないからウヤムヤにすることが多い。
けど何故?

「あなたが燃やしたからですよね?僕、見てましたから。」
「だとしたらどうなの?」

相変わらず笑みを崩さずにお姉ちゃんは答えた。

「あなたにどんな趣味があるのかは知らないけど、人が倒れて死んだと分かった瞬間に
 フィルターを燃やす意味が僕には分からないんですよ。」

そんなのあたしにもわからない。
もしかしたらお姉ちゃんだって特に意味も無かったかもしれない。
なのに、なんでこんなに胸騒ぎがするんだろう。
そんなあたしをよそに夢島さんは言葉を重ねていた。

「僕は最後に入って来たからあなたがどんな人か知らない。
 だけど、どう見ても人が死んだというこの事態にはあなただけ表情が浮いているんだ。」

お姉ちゃんは突然笑い出した。

「そうよ。グラスに薬を注いだのは私よ。」

お、姉…ちゃん?
グラスに薬を入れたのはあの男の人じゃなくて。
嘘だ!
気づけばあたしは立ち上がっていた。

「やめて!!嫌よそんなの嘘よ!!」

けれど、お姉ちゃんから返ってきたのは欲しくない言葉だった。

「ゆきむちゃん。ごめんね。本当なの。」

お姉ちゃんの目は見たことが無いくらい冷たい。
違う。あたしは一度見たことがある。
あれはお姉ちゃんがスゴく辛かった時。
あの時と同じ目をしている。

「でもね、かちょさんではないの。私が死んで欲しいのは。」

そう言うとお姉ちゃんはカウンターから立ち上がり、横にいた犯人だと思っていた彼を見下ろした。

「どうして。どうしてあなたは死なないの?ねえ?
 あの人は死んでしまったのにあなたのあの人も死んだのに何故なの?」

お姉ちゃんの問いにあたしは気づいてしまった。
あの人がダイバーだったんだ。
お姉ちゃんを悲しませたあの人の…。
ダイバーは素っ気なく、

「俺が知りたいよ。」

と一言だけ呟いた。
静まる周囲は何も言えずにいる。
もちろんあたしも。

「…え?もう俺の回終わり?」

微かに届いた夢島さんの声。
残念だけどそう。
夢島さんもあたしも出番は終わり。
きっと終局を迎え幕を下ろすのはあたし達では出来ないのだから。
この悪夢は終わらすのはきっと…
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