■ルイーダの酒場殺人事件2-forかちょ-【波乗り姉の視点】 ※ロクロ粘土氏共催イベント

ようこそ「ルイーダの酒場」へ。

此処は恋に哀しみを覚え
故に恋を引きずって訪れたお客様を癒す場所
本日は開店記念として
ちょっと変わった趣向にて

お店のお話を覗いて見てください

あたくしは
ママのロクロ

少しダミ声ですが

慣れて下されれば…


あら。
開店時間だわ。

どうぞ
いらっしゃいませ…





「これか?これは我輩の苦労の結晶である!」

和やかな雰囲気漂う店内に響く隣のテーブルに座る男性の声。
思わずあたしはクスリと笑った。
微かに視界がズレることによってカウンターに座る男女の姿が見える。
さっきは一人の男性を挟むようにして二人の女性が座っていた。
今は一人姿を外しているらしい。
なんだかなぁ…
小さく溜め息をついたあたしに向かいに座るわたなべ部長が目敏く気づいたようだ。

「波乗りさん?」

隣に座る四階堂さんはあたしの視線を辿り「あぁ、あれね。」と苦笑する。

「なんだか複雑なようだね。」
「ですねー。」

カウンターの左側に座るかなっぺさんはあたしがさっきまで話をしていたのだが、
他の人に挨拶している間にあっちに座っていた。
楽しそうに目を細めてタバコを吸っている。
知り合いなのだろうか。

店に入った時にカウンターに座っていたのはがっしりした体つきの男性と大人しそうに見えた女性だけ。
ロクロママが親しげに喋っていて、確か男性をダイバーさんって呼んでたような。
女性の方は…か…か…あーわかんないや。

鮮やかなオレンジのチュニックワンピを着たかなっぺさんが華やかなのに比べると、
彼女はジーンズにベージュのジャケットというやや地味な感じがする人だ。
かなっぺさんをチラチラ見るダイバーって人に話しかけてグラスを合わせていた。

「やっぱりアレって修羅場かなぁ?」
「オープン祝いの日に?さすがにないでしょ。」

よく通る歌声が店内を満たす中での会話は隣にも聞こえない。
あたしはかなっぺさんを再び見ている二人に気づいた。

「わたなべ部長!四階堂さんも!好奇心剥き出しで見てたら駄目でしょーが!」

ギリギリまで落とした声で二人を咎めるも「波乗りさんもでしょー。」って返された。
確かに来週の電王と同じくらい気にな…違うって!
あたしはかなっぺさんを心配してるんだから!
なのに二人は楽しんでいるようだ。

「このまま修羅場で誰か刺されたりとかして。」
「そうそう、俺達で見張っ」
「ありえませんから。」

わたなべ部長のグラスを掴み勢いよく飲み干す。

「俺の酒!」
「わたなべ部長が悪い!」

四階堂さんが慌てて自分のグラスを隠すと誤魔化すような笑顔を浮かべた。

「まぁ、ずっとあのままって事はないでしょ。」
「そりゃそーですけど…。」
「実際は元カレを冷やかしに行ったとかそんなもんかもしれないし、戻ってからそれとなく話を聞けばいいから。」

確かに。

今ここで何を言ってても憶測だからね。
別にあたしは探偵に向いてるわけでもないし。
後でかなっぺさんに聞いてみよう。

「それじゃ、来週の電王予測でもしてよっか。」
そう言ってグラスを持ち上げた瞬間に響いたガランと一際大きな音。
入り口を見れば店に男性が入ってきた。
あれ、夢島さんだ。

一瞬音楽が鳴り止むも、気をとりなすように再開された。
また和やかな雰囲気に戻る店。

そして一瞬の静寂。

「また誰か、」
「かちょ!?」

途端に上がる幾つかの悲鳴。
かちょって確か。
あたしは後ろを振り向いた。
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