ルイーダの酒場殺人事件その-…? もうひとりの筆者の作品 サービストラック
ようこそ「ルイーダの酒場」へ。


此処は恋に哀しみを覚え

故に恋を引きずって訪れたお客様を癒す場所

本日は開店記念として
ちょっと変わった趣向にて

お店のお話を覗いて見てください

あたくしは
ママのロクロ

少しダミ声ですが

慣れて下されれば…




あら?事件はもう解決してたはず…


そうお思いのお客様


実はお話には続きがあったの


ううん。
少し違うわね。

ルイーダの酒場がこの世界に登場したころ


実は
あたくしは殺人を犯した事…覚えてらっしゃるかしら…。

そう、ルイーダの酒場が
バーボンハウススレのパクりだと気付いた方が

不幸にもあたくしの手によって…



でも、それはこの物語とは違う世界


そう、another world
別の時間のお話…



ルイーダの酒場は
至る時代に存在し

また、色んな筆者様の舞台になり…


あら、時間だわ…

どうぞお入り下さい…


たたし、



扉が閉まると


もう、逃げれませんことよ…




ギィ…


バタン。


another worldへの扉↓






■ルイーダ殺人事件 真相編〜ヤスに間違えられた刑事の視点〜■
 マイミクロクさんが書いていたルイーダ殺人事件の「真相」です。



―ルイーダ殺人事件 真相編―

 ようこそ「ルイーダの酒場」へ。此処は恋に哀しみを覚え、
故に恋を引きずって訪れたお客様を癒す場所。本日は開店記念として、
ちょっと変わった趣向にてお店のお話を覗いて見てください。
 あたくしはママのロクロ。少しダミ声ですが慣れて下されば……。


【自殺サークル ルイーダの酒場 入り口】

 バー「ルイーダ」による集団自殺事件後の取調室。
 ノートパソコンが、安岡刑事の手によってゆっくりと閉じられた。

「自殺サークルですって……。変わった趣向って、まさかこの事だったの?」

 HPの裏ページを刑事から見せられ、HN【かちょ】こと久坂千代は、憔悴しきった声で返した。

「そうです。特定のパスワードを書き込む事によって、このページへ飛ぶ事が出来ます。
 逮捕した三善カナ容疑者、あなたがたの呼び方ですと、ええと……カナッペでしたか? 
 彼女から聴取して、この場所を確認しました」

生存者はここにいる千代の他には三善容疑者と、ダイヴァーこと大場順次、
遅れてきた夢島永吉と言う霊媒師、自称〈名探偵の孫〉ことミンク・綿貫という少女のみ。
他は全員、塩化カリウムの服用によって死亡した。嫌な言い方をすれば、自殺の本懐を遂げた。

あの現場は思い出したくもない程薄気味悪かった。
死体以外数人しかいないのにどこからともなく多数の話し声が聞こえ、
飛び出した途端体が重くなり「ヤス、ヤス」と耳元で誰かが囁いて来るし、
死体の山からゴスペルが聞こえたり、ミンクが三善容疑者に推理を言って聞かせたりと、もう訳がわからなかった。

夢島にお祓いしてもらった上で事情を聞き、ようやく犯人逮捕に踏み切った。
罪状は青酸カリによる殺人未遂。大場順次のグラスには青酸カリと、
大量のハバネロが検出された。青酸カリは灰皿の中で燃えカスになったフィルターに付着したものと同様だった。

グラスにイタズラ目的でハバネロを盛ったのは千代だから、殺人と判断されてもおかしくはない。
主賓のロクロママだけじゃなく、全員が死んだ。
娘まで巻き込んだ彼に何があったのか。しかし今となっては、
自殺サークルだった事さえ知らなかった千代に尋ねてもわからないだろう。

「塩化カリウムは安楽死の際に使用される薬品のひとつですな。それを入手できる経路に心当たりは?」
「……多分、お豆腐の『にがり』からだと。塩化カリウムを含んでいますから。
 にがりは過剰摂取すると死亡事故も起こすほど危険なんです。ママの気持ちを知らなかった私は、
 その事をママにポロッと教えてしまったんです」

カリウムは様々な種類がある。にがりの成分の一つである塩化カリウム、
マッチ精製に使用される塩素酸カリウム、
そして〈青酸カリ〉の呼び名で有名なシアン化カリウムも種類に含まれる。
青酸カリは工場などで簡単に手に入る。

入手しようと思えば出来ただろうが、「楽に死ねる」という性質から
塩化カリウムが使われたのだろう、と千代は続けた。
大場に盛られた青酸カリの経緯はわからない、とも。

「ロクロママ、いえ、大石六郎さんのご両親は、小さなお豆腐屋を経営していたそうです。
 ママ、いつも言ってました。自分の両親が作った豆腐を店に出すのが夢だって」

それでバーなのに板前がいたのか。豆腐料理が出されるなら板前がいてもおかしくないわけだ。

後で調べた結果、大石に雇われた政という板前は豆腐料理のエキスパートだったが、
数年前に起こった〈にがりダイエットブーム〉の際、分量を多めに設定した料理を出して食中毒事故を起こし、
調理師免許を剥奪されていた事がわかった。

「でもご両親が借金苦で首を吊ってからママの様子は変でした。悪い事は続いて、
 付き合っていた男性に出店用に貯めていたお金も持ち逃げされてしまったんです。
 それが、店を自殺サークルに変質させた原因だったなんて」

安岡刑事は煙草を揉み消しながら頷く。
「しかし、あなたに盛られた薬品は微量の睡眠薬でした。あなたが生き残ったのは、何故だと思いますか?」

千代は少し考え、ゆっくりと唇を開いた。

「おそらく、カナさんが身体で訴えようとしたんだと思います。あなたがこんな風に私の恋人を奪ったんだって……」
「なるほど。去年発生した〈聖ベルモンタナ病院連続安楽死事件〉が関係していると。
 あなたはあそこの元看護士だったそうですが?」

当時、年間で何十人もの脳死患者が発生し、すべてが安楽死によって処理された事件だ。
病院側は同意だと反論しているが、あまりの異常性から警察は事件として捜査している。

千代はロボットのように感情なく頷いた。

「カナさんと大場さんは、それぞれの恋人の安楽死には反対でした。
 でもご両親の意志は固くて、恋人だからというだけでは説得できなかった。
 それでやむなく決行され、私たちの関係も単なる友人ではなくなった。
 私は生き残ったと同時に、仲間の輪から取り残されたんです」

 それだけじゃないでしょうと、刑事は続けた。酷だとは思うが、真相を明らかにしなければならない。

「久坂さん、三善容疑者と大場さんが証言しているんですが、
 病院側が架空の自殺サークルを運営していた事はご存知ですか?」

千代は一瞬顔をこわばらせたが、やがて観念したように頷いた。

「日本では移植に使える臓器が不足しています。ベルモンタナは各病院と結託して、
 自殺サークルを装い自殺志願者を誘い込み脳死状態にして、
 臓器移植を希望する患者に提供する手段を考え付きました。
 〈どうせ自殺を考えてるんだから、遺体を有効活用しても文句は言われないだろう〉って……。
 でも、カナさんと大場さんの恋人は、お酒が飲める普通のお店だと勘違いして入会してしまったんです。
 ちょうど、ダブル挙式の場所を探していたんだそうです。
 それで集団自殺を装った集団脳死の被害者として巻き込まれた。
 発覚を恐れた病院側としては、一刻も早く安楽死させて処理したかった。だから……」

その方針についていけなくなったから病院を辞めたと千代は続けた。
狂ってしまった古巣に対する憎しみからか、その罪を告発できなかった自分への不甲斐なさからか、
あるいは両方だろう。堅く拳を握り締めていた。

「それをあなたに告発させる為に、三善容疑者は脅迫方法として死を選び、
 大場さんを自殺に見せかけて殺そうと企んだそうです。
 大場さんは真相を暴く事であなたに危機が及ぶ事を恐れ、あえて証言を覆した。
 それが許せなかったんだと容疑者は言っています。だから大場さんのグラスに、
 他の人と違い青酸カリを入れた。殺害が目的です。だが……」

「私が、グラスにハバネロを入れてしまった」

千代がグラスにイタズラしたのは、少しでもおどけて、ほころんだ関係を修復するためだという。
そんなことで三善カナや大場達の怒りは収まらないと思うが、それが結果的に大場の命を、三善を罪から救った。
久坂千代と病院の背後関係までは知らなかったものの、
夢島と協力して推理をしたミンクという少女の推理力はさすがだ、と刑事はしみじみと思った。

今にして思うと、これも誰かが仕組んだ計算の内だったのかもしれない。
誰かがこの真相を推理させる為に。

「三善容疑者の罪状はあくまでも殺人未遂です。殺意こそありましたが、
 飲料にハバネロを混ぜたあなたのおかげで実行には至らなかった。
 すぐにとは言えませんが、早い段階で出てこれます」

 気休めとは言え、そう言うしかなかった。
 生きていけばやり直せる。友情だって。
 そう思うしかなかった。


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