新連載 ダイヴァー氏主演小説 -LIVE CARD-第一話 大盤振舞 第四幕
翌日
さやは約束の時間である朝九時に脳噛探偵事務所にやってきた

壊れた筈の窓は直され心地よい風が流れている。


「どうぞ」
促されるままに年季の入った、しかし丁寧に扱われているソファーに腰掛けるさや

数枚の書類を持ち、トントンと立てて揃えた後、さやの前に差し出した。


「…これは?」

書類を手にして不思議そうに尋ねるさや

「昨日調べてきたんですが、やはり一筋縄ではいかないようです。状況と捜査概要をまとめました。」

驚いた表情で書類を読むさや。

「…もう、調べられたのですか?」

「場所が場所だけに時間がありませんから。それに警察もボチボチ動いてるようなので」
「け、警察が…ですか?」

とたんに顔色が青くなっていくさやに
慣れた手つきで麦茶を汲みさやに出すダイヴァー

「あ、ありがとうございます…」

動揺しながら麦茶を飲むさや

「あ…美味しい…。」
「隣のサ店には劣りますが(笑)」

そう言いながら席に座るダイヴァー


「さてと…。率直に申し上ますと、貴女のお捜しの男性は、クラブ・メルキドには居ません」

「…え?」
いわれた言葉が飲み込めないさや

にこっと笑みを作り
「はい。」
と答えるダイヴァー

「でも、確かに間違いなく電話では…」

ハッ!

と何かに気付き口ごもるさや。


「そう。貴女への脅迫ではね。」

びっくりした表情のあと、

何かに観念したようにさやはその後に続いた
「やっぱりわかってましたか。」

「いえ。今確信しただけですよ。」

笑顔が変わらないダイヴァー

「何を隠しても無駄ね(笑)貴方には」

「仕事ですから(笑)」
そう言うとダイヴァーは再び説明に戻った


「クラブ・メルキドには居ません。但し…あのビルの八階には居るみたいですね。」


「向こう言い分では…ですか?」


トンチの答を聞くようにさやは聞き返す


「いえ。僕の調査結果ですよ。」


「あのビルの最上階である八階にはテナントは一軒しか入ってない。
しかし、あのビルは八階ではなく九階建てなんですよ」


何故だか驚きもしないさやにダイヴァーは当然のように受け止め話を続ける

「そして、その九階では…ご存知ですね?」
さやは下を向き
息を大きく吸い


覚悟を決めてスッと短く息を吐いた


「えぇ…。」

返事を聞きダイヴァーは
うんうんと頷いた


「そう。賭博場があります。そして貴女は賭博場で働いていた。」

微笑みを絶やさないダイヴァーに安堵とも取れる感情でさやは答えた

「その通りです…。半年前クラブ・メルキドに賭博場が移る前まで…」

さやは小刻みに震えながら話を続けた

「三年前、父の事業が失敗し、会社が倒産したのです。

借金の返済の為に私はクラブのホステスになりました。

その時の店にカジノがあり、レートも高く無く
お客様へのサービスとしてやっていましたので
その事はみんな知っていました。

無論、非合法な事なので
一部の地位の高い上客のみにの開催でしたが。

ある日私はカジノの方で働く事になったんです。


カジノ入ってすぐに
私はウエイトレスからルーレットのディラーへと回されました。

たまたまやったルーレットで八回連続で大当たりに…

それを見ていた当時のオーナーが私をディラーに指名したのです

ある日地元のヤクザがその賭博場を嗅ぎ付け
みかしめを取るようになり…

それから段々とレートが上がって行き

遂にはカジノはヤクザに乗っ取られ

カジノとクラブの行き交いは厳禁になり

私は半分軟禁状態でした



毎日ルーレットを回しているうちに

私にはどういう訳かルーレットの出目が操作出来る事を知ったのです。


勿論誰にも内緒でした。

だけど…魔が差した私はこの力を使って父の借金を返してしまおうと…」

力無くさやは続けた


「誘惑に勝てず私はそれを決行しました。当然結果は大成功。

父の借金を上回る大金を手にしました。

その日を境に私はお店から姿を消して、
普通の生活を手にした筈だった。」

「筈だったの…」

全てを聞いたダイヴァーは間を置いて応えた

「向こうは貴女の力もやった事も知っていた。」

「…はい。」

そう言って思い詰めた表情でダイヴァーにすがりついた。

「奴等は私の力が欲しくて、私を探し出した。そして…お金は没収され私の…






私の弟のラフィーを…」


涙ぐみさやは続けた

「お願いです!ダイヴァーさん…助けて下さい」


ニッコリしたまま
ダイヴァーは応えた

「大丈夫ですよ。依頼はもうお受けしております。ご安心下さい」




さやは泣きながら此処にたどり着いた事を心の底から感謝した。


さやが泣き止むのをまち

ダイヴァーはさやに向かってこう言った


「貴女にも危険が及ぶかもしれませんが、
弟さんを連れ帰るには
貴女が行かなければなりません。

貴女にはその覚悟がありますか?」


さやはもう悩みもない決心を露に

「覚悟は出来てます。」

そう言ってダイヴァーの手を取った。



続く


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