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《足跡ペタリン★イベント小説》【怪盗紳士のお茶の間劇場〜全ては終わりへ向け錯綜する〜】
『さぁ現在生放送で送っておりますのは怪盗Dの予告状が届いた【ルイーダの酒場】です!
コマーシャル前に起きた意外なラブ路線!
このままギャグに戻ることなく突き進むのか!!』
「いや、その前に盗みが成功するかじゃないの?」
「迎えに来たッス!」
「うわ。」
彼女が働くアンテノンテの裏扉前。
「何でッスか!そのリアクション!!」
「自分で考えろ。」
彼女に会えた俺のテンションとは裏腹な態度に俺は少しヘコみそうになる。
(が、ウザがられたら嫌だから明るめテンションを守れ俺!)
「無駄にテンション高過ぎ。」
…うわ、マジでヘコみそう。
ガッカリした気持ちがあからさまに出たのが嫌だったのか、彼女が「仕事まだあるから。」と裏扉に手をかけた。
「そうッスか…。」
俺空回りでカッコ悪い。
彼女に迷惑をかけないように帰ろうと背を向けると声がかかった。
「もうすぐ終わるから入って待て。」
「俺ペペロンチーノが食べたいッス!」
「…ウザい。」
「っ!(何で!?)」
「…無由君。」
少し下がった声のトーンに自信満々でいた無由は首をかしげた。
「LadyS?」
彼に背中を見せるsuwanの肩が若干震えているようないないような…
「私、無由君に何て言ったかしら?」
「え?今テレビで話題になった黒い人でしょ?」
振り返ったsuwanは半眼で無由は無意識に後退る。
つ、と汗が流れた。
「えぇ言ったわね。今テレビで話題の黒い方。けどね、」
指差す先には黒マントの男。
「アレをどうして私が盗まなきゃならないの?」
「だって、」
「私の専門は何だっけ?」
「美術品、…あっ!」
そういえば他のニュースでしてた話題の黒。
怪盗Dに意識が向いて忘れていたが…
「地元放送ばっかり見てるから…。」
suwanから溜め息が溢れる。
「私が欲しかったのは絵画。【黒の聖女】よ。」
半眼では無くなったsuwan。
だが怒りの余りに見開いた目に無由が土下座をするのは2分後のこと。
『何そんなにペペロンチーノが食べたかったの?』
「…まぁそうとも言う。」
鈍い。
鈍過ぎる!
さやぴと怪盗Dのやり取りにウンザリするラフィーとまぁちゃん。
「これならギャグ路線に戻ってくれた方がマシですね。」
「そうだね。何が悲しくて天然相手のラブコメにならないといけないんだろうね。」
目に映るのは黒いマントと脳噛の文字。
「さすがに同情するよ。」
「ですね。」
「この状態をどう収集するんです?」
届くダミ声に顔をしかめる。
「いっそ盗む前に少しだけあげたらいいんじゃないですか?」
返す言葉にやる気は無い。
「そうすれば盗みが発生しない=円満解決=絵画の警備につける=デミオ・パト化計画の署名が貰える!」
「…」
こいつ、駄目だわ。
普段カエルが仕事をしていないのがわかるセリフに、ロクロママは相づちを打つ気力もダウン。
「ペペロンチーノを作るだけだし大した量でもないんだからケチケチしなくてもいいじゃないですか。」
「それって職務怠慢じゃないの?というより、無いのよね。」
カエルの動きが止まる。
「今“幻のハバネロ”は店に無いの。」
唖然としたカエルの携帯が着信音を鳴らした。
「KOTOKOかよ!!」
ロクロママの突っ込みポイントがわかるのは何人いるのか。
「そろそろ帰ろうかな。」
あの黒一色の青年に場所を譲ってもらったのはいいが、少女にはあまり時間が無かった。
白いワンピースの裾を広げて喧騒に背を向ける。
肩には黒のトートバッグ。
「面白いものをありがとう。感謝するね。」
「まだいる?」
千明の問いに幼い少女は首を振った。
「もういらない。」
ピザから顔を背ける。
それを見て千明は少し目を細めた。
「違うよ、マナと同じって子のこと。」
「いない。きえた。」
そう答えてマナは窓の外をまた見始めた。
「【黒の聖女】が無くなった!?」
署の先輩から出た言葉はカエルを驚かすには十分だった。
『で、人が足りないんだ。そっちの怪盗ごっこは早く終わらせて早く来い。
猫の手も借りたいくらいに忙しいんだ。』
捲し立てるに言って切られた電話を呆然と見つめる。
一体誰があれを…?
とにもかくにも美術館に回らないといけない。
その為には多少強引だろうと茶番を終わらせる必要がある。
拳銃を出そうとして手を入れ、カエルは思い出す。
―『今晩そちらに届いた黒い方をいただきます LadyS』―
今日、コイツは現れたか?
いや見ていない。
見たのはダミ声のママと黒いマントの変態と助手と頼りなさそうな探偵と年齢詐欺女とその身内と天然女だけだ。
ということは…
「…これは陽動か?」
LadySが狙っていたのは【黒の聖女】だとしたら。
そしてこれは彼女による周到な罠なのだとしたら。
拳銃を握る手に力が入った。
「お待たせー。」
ちっとも悪びれない態度で現れた女に溜め息をつく。
「マジ待たされました。」
それには軽くスルーで女はたまの鞄を持った。
「ほらルイーダに行くよ。」
「えー、今日はアンテノンテでいいじゃないですか。」
「悪いんだけど今日はママに遊びに行くって言ったんだよね。」
やはり悪びれた様子の無い態度に溜め息が溢れる。
「かちょさんのオゴりですからね。」
最後の言葉もスルーされた。
『ハバネロなんてペペロンチーノには辛過ぎるじゃない。』
「何を言う!あの辛さが美味いのだ!」
『確かに食べてはみたいけど。』
「ならペペロンチーノに、」
『自分の辛餃子に入れたらいいじゃない。』
「さや姉、持ち上げて落としたよ。」
後1時間3分8秒。
倉庫の穴が微かに揺らぐ。
それを目の端に入れてケッタマシンは最後の缶ビールを開けた。