【怪盗紳士のお茶の間劇場〜ラブ不毛の地にようこそ〜】

「せ〜んせぇ〜。」

やる気無い声は響くことなく観衆のざわめきに消える。
さっきからラフィーを探しているまぁちゃんだが、そろそろ疲れ始めてきていた。
それでも探すことを止めないのは絶対なる人物の存在があるからこそ。
あの人にバレたらただじゃ済まない。
そうなる前に見つけないと。
だが焦るまぁちゃんを嘲笑うように敬愛する先生の姿はどこにも見えないでいる。

「誰かに手伝ってもらおうかな…。」

そう呟いた時、

「…お困りのようね?」

まぁちゃんの動きが止まった。


「あ〜、また来たよ。」

呆れた声は誰にも聞こえることはなく。

ヒマジーは怪盗Dより少し離れた場所に目を向けていた。

怪盗Dもあの人には敵わないようだからなぁ…。
そろそろ撤退する準備でもした方が良いと判断してヒマジーは後ろに視線を送る。

「俺もう行くから。そこ見にくかったんじゃない?」

何だ。気づいていたんだ。

「気づいたなら言えばいいのに。」

顔だけ出せば目の前にいるのは黒づくめの男。
帽子とサングラスまでしているので顔はわからない。
ただ唇の端が上がったので表情だけは読み取れた。

「一体何の用でそこにいるのかわかんなかったから様子見してた。」

思っていたよりは有能かも。

「ふ〜ん、で?」
「俺そろそろ離れるから場所を譲ろうかなっと。ついでに誰が隠れてるのか見たかったしね。」

そして思ったとおり、まだまだ子どもみたい。

「意外にも出てきたのが可愛い子でビックリしたけど。」
「それはどうも。」

私も唇をキュッと上げた。

「私も怪盗Dの助手さんに会えるなんてビックリよ。」
「なっ!?」
「次からはもう少し気をつけた方がいいよ。
 こんな鍵がかかっていたはずの屋上に入って怪盗Dをずっと見てるんじゃね。」

しかも簡単な誘導に引っかかって。
まだまだね。
私は黒いマントに目を向けた。


「ホントどうにかならないかしら。」

ダミ声でボヤいてみたけど睨み合う黒マントと警官には届いてないようで、
ロクロママは少し苛立ちながらも何故かボロボロになった探偵を救うべく二人に背を向けた。

「それにしても…」

ハバネロが今無い事を言うタイミングを逃したけど今更よね。


『そろそろ諦めて捕まれよ!』
「まだ何も盗んでおらんではないか!」
『盗まれてからじゃ遅いんだよ!』
「では怪盗を名乗れないだろう。

お前はデミオ・パト化キャンペーンでもしているがいい!」

『それを邪魔してるのがお前なんだよ!』

タスキをたなびかせて叫ぶカエル。

「まぁな。」
『誉めてない!照れるところでもない!』
『そして怒鳴り合ってるところでもないでしょ。』

横やりで入った声に怪盗Dがギョッとして辺りを見回した。

「今の声はさやだな!?」
『当たり前でしょ。』
『またか…。』

ゲンナリしたように呟いたカエルは拡声器の電源を切る。
そしてボロ雑巾のようになった探偵を救助しているロクロママを手伝うことにした。
何でもいい。
とりあえず一段落着いたら戻ればいいだろうと思いながら。


突然側でブレーキ音がしたのにsuwanは少し驚いた。
車外を見れば憶えのあるバイクと青年の姿。

「無由君!」

慌てて窓を開ければ黒ずくめの青年は唇の端を上げて笑った。
ご丁寧に黒い帽子とゴーグルまでしていて、表情がわかるのはそこだけだ。

「迎えに来ました!」

こっちの方が早いですよね、と言う無由に微笑み返してタクシーの運転手に下車を告げてお金を渡した。
渡されたメットを被り状況を聞く。

「今回の準備は出来てる?」
「バッチリです。

話題の黒い人ですよね。
ちゃんと予告状も出してきましたよ。」
suwanが乗ったのを確認し無由はアクセルを握る。

「予告状は人に刺さってない?」
「もちろんです。」

ならいいけど。
最後の声は聞こえることなくバイクは走り出した。


『毎回毎回懲りもせず妙なモノばかり狙って…一体何をしたいのかしらね。』

絶対零度の声を響かせて一人の女性が登場した。
後ろにいるのは探偵助手で「拡声器返してくださいよ〜。」なんて言っている。

『そんな事よりまぁちゃんはラフィーの面倒でもみなさい。』
「あっ、先生!」

ようやくラフィーに気づいたまぁちゃんはロクロママとカエルの側に走っていった。
それを目だけで見送りさやぴの視線は怪盗Dに戻る。

「妙な物とは何だ。幻のハバネロだぞ。」
『幻、ね。』
「これがあれば最高の辛餃子ができる。」
『餃子…?』

途端さやぴは我慢出来ずに笑いだした。

『アレで餃子を作る気だったの?』

いきなり笑いだした彼女に戸惑いを隠せず怪盗Dは尋ねる。

「さやは知っているのか?」
『そりゃもちろん。でもアレは辛いとかじゃなくて…痛いかもね(笑)』
「痛い!?」
「痛いですよ。痛いというか激痛です。」
『あっ、ラフィー起きたの?』

よろよろしながらラフィーは「どうも久しぶりです。」と怪盗Dに挨拶をした。

「よう。探偵も知っているのか?」
「ええまぁ。ってか調理には向きませんよ。」
『そもそも出来ないでしょ。』

アッサリ言い放ったさやぴに頷き、ラフィーは怪盗Dにやや同情的な視線を送った。

「なので普通のペペロンチーノでいいんじゃないですか?」
「ちょっ、ラフィ、おまっ!」
『ペペロンチーノ?』

餃子じゃなかったのかと疑問がさやぴの顔に浮かんだのだろう。
ラフィーが困ったように笑って教える。

「先日会った時にさや姉の作ったペペロンチーノについて話をしたんだよ。」
『そうなんだ。で、何なの?』
「ニブいなぁ〜。ほら、あの時さや姉が言ったこと憶えてる?」

さやぴは首をかしげる。
合わせてポニーテールが揺れた。

『あの時ねぇ…確かペペロンチーノに使った唐辛子が京都の人に貰った珍しいのだってはな、』

おもわず怪盗Dを見る。
怪盗Dはさやぴと目が合わないように顔を背けていた。


『ラブです!ラブコメです!ラブ不毛なギャグ展開の中、意外にもここでラブ路線がやってきました!』
「おっ、テラちゃん復活。」
「誰かさんの嫌がらせから、ね。」

白い目のテラに慌てるくうちろ。

「いやあれはだな…」
「言い訳は結構。さっさと働いてください。」
「はい…。」
『さぁ怪盗Dは何と言うつもりなのか!?そしてペペロンチーノの彼女はどう応えるのか!?』


「ところで鉄血義兄ちゃん、」
「何だ?」

ビリーに入隊しながらの会話だが、二人の声に乱れは無い。

「さっきの中継の予約録画してくれた?」
「しているわけないだろう。」
「ひどい!頼んでたのにぃ〜!!」

万鬼がビリーバンドを強く引きMNKSを睨みつける。

「あんなモノを父上と母上には見せられんからな。」
『わかったか〜!』
「わかるかボケェェェェェ!!!!!」

MNKSのビリーバンド(カスタム仕様)が千切れた。


「今携帯が鳴ったぞ。」
「マジ?」

見ると確かに携帯にメールが届いている。
確認するとかちょからのメールだった。

《残業。向かってる。》
「なんでこう電報みたいなメールしか送らないんだ…。」

慣れたけど。
たまは返事をするべく返信のボタンを押した。


「残り1時間48分39秒。」

そろそろ離れる準備をしよう。
ケッタマシンは空になった缶をゴミ袋に入れた。


『さぁ睨み合う怪盗Dとペペロンチーノ!
 警察は介入できない次元になってきました!
 チャンネルはこのまま!
 一旦コマーシャルです!!』

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