《足跡ペタリン★イベント小説》【怪盗紳士のお茶の間劇場〜魔法は使えないのですが…〜】

「「うおっ!危ねー!!」」

怪盗Dとカエルの声がハモる。

『今何かが怪盗Dの横をかすめて警官の拳銃に刺さりました!』
「これ、カードか?」

カエルの拳銃に刺さっていたのは黒地に銀の装飾がほどこされたカードだ。
怪盗Dの目が羨望と好奇心で輝く。

「それ何で出来てるんだ?参考にしたいな。」
「そうした方がいい。」

よいせ、と少し力を入れて引き抜いたカードにカエルは目を落とす。

「えーと、字が銀色で読みにくいなぁ…『今晩そちらに届いた黒い方をいただきます LadyS』。って予告状!?」
「二番煎じな奴だな。」
「そういうお前は出がらしだよ。」

だが問題はそこじゃない。

「ってか黒い方って何だ?人か?」

ここで狙われるような黒いの…

「…私か?」

自らを指差す黒マントの男。

「マジ?」

俺はこいつを守らないといけないわけ?
それでハバネロも守らないといけないわけか?

「…断固拒否だ。」
「は?」

横で不思議そうにロクロママ。
それを無視してカエルはニヤリと笑う。

「怪盗Dをいただかれてもらったなら俺的には助かるよな。」
「確かに。」

頷くロクロママを尻目に拡声器をスイッチオン。

『自分の事は自分で何とかしろよ。』


『何だかわからない状況になってきました!

ただわかっているのはLadySと名乗る人物から怪盗Dの命を狙う予告状が届いたということです。』

「何だか面白いことになってますねぇ〜。」

倉庫に響く音声。
ケッタマシンは近くの箱からよっちゃんいかを取り出しビールを飲む。

『この予告状に観衆も盛り上がりを見せ、うわっと!』

おそらく観衆にぶつかったのだろう。
カメラが大きく揺れてあらぬ方向を映した。

「あっ!」

思わずテレビの画面に目を凝らす。
僅かだが映ったビルの屋上。
白いワンピースの裾に黒い髪。

「こんな所にいたんですか。」


どうやら上手くいったらしい。
後はLadySを迎えにいくだけだ。

「suwanさんもこれには俺を褒めるしかないでしょ〜。」


「せんせ〜い!」

まぁちゃんが下りた時ラフィーの姿は何処にも無かった。
どうやら観衆に紛れてしまっているようだ。

「まいったなぁ…。」

あの先生のことだから怒りはしないが問題はそこじゃない。
怪我なんかされても医療費は無いのだ。
軽傷のうちに見つけださないと。
でないと先生のお姉さんに怒られる。


「なんか今スゴいのが通ったぞ。」
「えっ、何々?」

カウンターに座ってペペロンチーノを食べていたたまは、早くもデザートを盛り付け始めている少女に目を向ける。
無愛想だが美少女である彼女は店の看板で、よく来てるたまにとって彼女の態度は気になるものではなかった。
かちょさんの毒舌に比べたら…
アレは辛いというか痛いもんなぁ。

「あっ、俺も今見たんですけどね、羽やらなんやら付いていて。なんていうか…コスプレ?」

スキンヘッドにしたスタッフの言葉に少女は頷く。

「だと思う。」
「もうスッゲー感じでアレはマジでヤバいですね。」
「へ〜、ちょっと見たかったなぁ。」

そこにスタッフの一人がゴミ出しから戻ってきた。
何やらニヤニヤ笑って彼女を見る。

「何だ?」
「彼氏君が迎えに来てるよ。」

途端に少女は裏口に向かって走り去っていった。
後を追いかけるようとしたスキンヘッドは、ニヤニヤ顔のスタッフに足を引っ掛けられてら顔からつんのめる。

「いってぇ〜!伍嶋木!てめっ何すんだよ!」

睨むスキンヘッドに対してもニヤニヤした顔は消えない。
手に持っていた果物ナイフが落ちた。

「邪魔しちゃ駄目だよ。」

スキンヘッドの頭スレスレに刺さる。

「ふ〜ん。彼氏いるんだ。」

ちょっと残念だな。
まぁ、あの無愛想な彼女が一生懸命になるんだからいい男なんだろ。

「どんな奴?」

起き上がったスキンヘッドが果物ナイフを抜いて流しに放る。

「いっつもウザイって言ってますよ。」
「へ〜。」

まったくわかんないな。

伍嶋木というスタッフはようやくニヤニヤした笑いを含んだものに変えて教えてくれた。

「彼氏、中坊なんですよ。」
「はっ?」

驚くたまの後ろで大音量の音楽が流れた。


「今度は何だ!?」
『頼むからマトモな奴にしてくれ!』

いきなり流れ始めた軽快なリズムにややハスキーな声が重なる。

『もう寂しくないよっ♪もう怖くないよっ♪だって私がいるから〜♪』

はいどいて〜★という言葉に観衆が細い道を作った。
そこを駆け抜けてくる一人の女。
やはりカエルとは色違いの拡声器を手に持っている。
カエル達の前で止まるとパニエ一杯の短いスカートを翻してポーズをとった。

『幻想少女★マジカル・ミナ★ただいま参上☆』

その瞬間に湧き上がる歓声。
ミナちゃーんと叫ぶ太い声に手を振っている。

『なんと現れたのは今ネット界で大人気のアイドル、ミナちゃんです!

どうやら今夜の観衆の中には彼女のファンが混じっているようですね!』
今夜一番の盛り上がりを見せる観衆に若干引き気味の三人。
珍しく意見が一致した。

「さすがに『少女』は無いだろう…。」


「えぇと、次の角を右。」

プリントアウトした地図を手に目的地に向かうさやぴ。
もう片方の手にはワンセグ携帯があり、今の状況を克明に教えてくれた。

「あの馬鹿も馬鹿弟も!ついでに弟子も!」

今日という日を過ごした事を死ぬほど後悔させてやる。
さやぴの瞳は怒りに満ちていた。


『さぁ怪盗D☆私が来たからには悪事なんかさせないわ★』

ビシッと怪盗Dを指差すマジカル☆ミナことMNKS。

「ハッハッハッ!そんな事が出来るかな!?」
『そこの二人!悪乗りして遊ぶな!』

その言葉に華麗なターンを決めてMNKSがカエルを見る。
『無能な警察に何も言われたくありませーん★大人しく引っ込んでないと後悔するわよ☆』

ゴスッ!

「あたしの店が〜〜〜!」
ニッコリ笑うMNKSの腕の先、拳に触れるルイーダの酒場の壁はヒビが入っていた。

『黙ってみてな、』
「MNKS!!」

拡声器無しに響く野太い声。
瞬時にMNKSの顔が青ざめる。

『ゲッ!!鉄血義兄ちゃん!?』

ギギッと壊れたロボットのようにぎこちなく動くMNKSに合わせて、怪盗D達も声の聞こえた方に顔を向けた。
MNKSが通った道から更に現れるガタイのいい男。
太い眉毛を吊り上げて明らかに怒っているのがわかる。

「最近大人しくしてる思ったらこのような暴挙に出おって!今日という今日は許さんぞ…!!」
『ヒッ…!』

後ずさるMNKSを追い詰める。

「父上と母上の世間体を考えろ!何がマジカルで幻想だ!この馬鹿娘が!!」
『イヤアァァァァァ!!!』

鉄血はMNKSの首根っこを捕まえてから怪盗Dとカエルを見た。

「邪魔したな。後は二人で存分に戦うがいい。」

海軍式の敬礼をする。

『は〜な〜し〜て〜!』
「離すわけないだろう。

おまえは当分外出禁止でビリー三昧だ!」
それとな、と暴れる義妹に一言。

「『少女』は無理がありすぎるぞ。」


「何だか騒がしい事になってるのね。」

金曜日である今日が渋滞になるのは至極当然のこと。
街頭のテレビ板の前で止まったタクシーの中、suwanは軽く眉をひそめてみせた。

「まっ、その方が私には好都合だけど。」

それからイライラと腕時計を見る。
思ったより時間がかかってしまった。
無由君が上手くやってくれてると
それにしてもOLだったら気楽だろうなんて思ったのが間違いだった。
泥棒稼業を隠す為に勤め始めたのだが、何を間違えたか気づけば出張&残業三昧の生活を送っている。

「会社辞めようかなぁ…」

ポツリと呟いてもう一度腕時計を見た。

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