怪盗紳士のお茶の間劇場





予告・1
【怪盗紳士のお茶の間劇場1〜予告から始めよう〜】
ここは【ルイーダの酒場】。
恋に哀しみを覚え、故に恋を引きずって訪れたお客様を癒す場所。
そう、そんな場所。


「そんな場所なんだけど…。」
店内にダミ声を響かせて薔薇柄の着物を身に纏った人物が、困ったように頬に手を当てる仕草をする。
小さく刺繍された薔薇娼婦という言葉が目にも痛い。
だがそれ以上に困った顔をしているのは警察の制服を着た好青年だ。
「え〜と、ロクロ粘土さん、」
「ちょっとカエルさん。
ここではロクロママって呼んでちょうだい!」
「はぁ。」
相手のペースについていけないでいる。
「ではロクロママと呼ぶとして、」
カエルが摘まみ上げたのは一枚のカード。
厚紙で出来ていて、何故か角が少し折れていた。
「きっとキャッツアイカードみたいに壁に差したかったんでしょうね…。」
「刺さるわけないんですけどね。
普通は気づくと思うんですが。
けど問題はそこでは無くて内容です。」
二人の視線にあるカード。
鉛筆で書き殴った文字にカエルからは溜め息しか出ない。
ロクロママの目は丸くなっている。
「これって予告状ですか?」
「予告状です。」
「ここに?」
「ここに。」
「…変わった泥棒がいるもんですね。」
「全くです。」
二人の間に流れたのは沈黙。
それを破るようにカエルは無理矢理口を開いた。
「で、予告状を見ていただいたわけですが…。」
「何ですか?」
「ホントにそんな物がここにあるんですか?」
問われてロクロママは更に困り顔となる。
「ある、って言えばあるんですが…。」
あれはねぇ…と呟いてグラスを磨き始めたロクロママに、カエルはもう一度溜め息をついた。



《今夜“幻のハバネロ”をいただきます。

               快盗D》


inserted by FC2 system